Complete text -- "クロロフォルム殺人事件"

10 October

クロロフォルム殺人事件

 忘れないうちに。6日(木曜日)の補充。
 最決平成16年3月22日判タ1148号185頁をゼミで扱ったのですが、なかなか議論が白熱しました。実行の着手時期について、従来の判例との関係や実質的客観説からどう判断するのか、報告者がかなりがんばってくれました。
 事案は、クロロフォルムをかがせて失神させ、車に乗せて車ごと海中に落下させて溺死させようとしたところ、海中で溺死したのか、クロロフォルムの吸引により死亡したのか特定できなかったというものです。
#報告者によるとクロロフォルムの経口致死量は35ccだそうです。

裁判所は、クロロフォルムを吸引させた段階で殺人の実行の着手を肯定したのですが、報告者がこれにいちゃもんをつけたことで議論が白熱しました。
 裁判所は、クロロフォルムを吸引させる行為が自動車ごと転落させて溺死させる行為を確実かつ容易におこなうために必要不可欠であること、クロロフォルムの吸引させることに成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段のじじょうが存しなかったこと、両行為の間の時間的場所的接着性などから、最初の行為が後行行為に密接な行為であり、最初の行為を開始した時点ですでに殺人にいたる客観的な危険性が明らかに認められるとしています。

 報告者は、場所が2キロ、時間では2時間というのは接着性がない、クロロフォルムを吸引させることは行動の自由を奪う意味しかないのに、殺人と認めるのは不当であるというものでした。
 下級審の裁判例に、猿ぐつわを噛ませて車に拘束し、ドラム缶にいれて焼き殺すという事案で、猿ぐつわを噛ませた時点では殺人の実行の着手がないというものがあり、これを同様に判断すべきだということでした。

 多数の者は、これに反対で、判例と同様でよいといろいろ反論しました。そのなかで、保険金殺人という計画からすると事故に見せかけることのできるクロロフォルムの吸引は、拘束の跡が残る猿ぐつわとは違って、重要であるという意見がありました。
 本決定は行為者の計画・その内容を加味して危険判断をしているもので、そのことを直接指摘していないものの、その実質をとらえているように思われました。いずれにしても、2年生の演習の議論として十分内容のあるものだった気がします。
#そのため、故意の点が急ぎ足になりました。

ちなみに、この判例は、来年の刑法学会の分科会の一つで扱われる予定です。なぜ知っているかというと、私も担当するからです。
20:35:29 | dolus | | TrackBacks
Comments
コメントがありません
Add Comments
:

:

トラックバック