Complete text -- "財産上の利益と管理可能性"

11 May

財産上の利益と管理可能性

 財産上の利益の例としては、債権が典型的なものとしてあげられ、その他に役務の提供をあげることが多いでしょう。ところで、役務の提供というのは、管理ないし支配の可能性があるといえるでしょうか。換言すると、1項の財物罪に相当するような利益の移転といいうる形態で、役務の提供は移転するといえるのでしょうか。
 たしかに、役務の「提供」ですから、提供という語感が利益の「移転」に相当するような気もします。しかし、サービスを提供する側は一定の活動をしていても、それと同等の活動をえているわけではないので、ここには利益の移転がないといえます(参照、町野・犯罪各論の現在)。むしろ、この場合、当該役務の提供が有償である場合、すなわち対価を必要とする場合、サービスを提供した側が債権を取得するにすぎないのです。
 そもそも、通説のように、有償無償にかかわらず、あらゆる役務の提供を財産上の利益とするならば、だまして友人の車に乗せてもらった場合ですら、詐欺罪が成立し、脅して車に乗せてもらったときには、強要罪ではなく、恐喝ないし強盗罪が成立することになります。このような結論を回避するために、近年では、有償の役務に限定しようとする(西田、曽根ほか)わけですが、実際にはどこまでが有償なのかはそれほど明確なわけではないといえます。
 たとえば、サービス料を別に請求する高級レストランやホテルのバーなどでは、そこで提供されるサービスは有償の役務であるが、スマイル0円のマクドでは無償の役務というようになるのでしょうか。あるいは、給料を払う意思がないのにだまして、ただ働きさせた場合には、労働を開始したら直ちに詐欺罪となるのでしょうか。サービス残業を強要することは、それ自体恐喝未遂となるのでしょうか。これらについて、どのように考えるのかはそれほど明確ではありません(参照、林・刑法各論)。
 むしろ、有償の役務の提供により、対価として債権を取得することに着目して、債務の(事実上の)免脱(あるいは、債権の経済的価値の毀損)を財産上の利益の移転とするほうが、適切であり、また、2項犯罪の移転罪(奪取罪)としての特質を明確にできるように思われます。
06:25:04 | dolus | | TrackBacks
Comments
コメントがありません
Add Comments
:

:

トラックバック