Complete text -- "奪取罪における客体と管理可能性"

29 April

奪取罪における客体と管理可能性

 財物の意義に関して、有体性説と管理可能性説の対立があります。管理可能性説は、財物を管理可能なものはすべて財物であるとします。周知のように、旧刑法時代の大審院の判例(明治36年5月21日刑録9輯874頁)で、電気窃盗が処罰可能かどうかが問題となり、電気は管理可能だとして財物性を肯定してことにより、有力化したものともいえます。
 しかし、管理可能性の概念を財物に使うのは、現行刑法の財産犯の体系からみて困難なものといえます。というのは、管理可能性を認めることができるものをすべて財物とすると、ほとんどすべての利益窃盗が処罰可能になりうるからです(牧野・瀧川)。


 近年いくつかの文献において指摘されているように(例えば、山口・各論など)、財物を管理可能性によって画する見解は、奪取罪が財物の占有の移転を特徴とすることに着目して、占有の可能性、支配可能性をその客体に要求するものであるともいえます。一見このような論拠は正当性をもちうるかにみえますが、それは二項犯罪の存在を軽視する点で問題があるようです。
 二項強盗、二項詐欺、二項恐喝が成立するためには、一項の財物に相当する利益の移転の具体性・明確性が必要であるとされています。すなわち、財産上の利益を客体とする奪取罪にあっても、やはり利益の移転、つまり利益に対する支配の移転可能性が必要となってくるのです。裏返すと、財産上の利益というためには、やはり支配可能性ないし管理可能性が認められなければならないといえます。
 それゆえ、管理可能性というメルクマールは、財物固有のメルクマールなのではなく、奪取罪の客体としての適合性であり、財物および財産上の利益にメルクマールであるといえるのではないでしょうか。このことは、複写による移転しかありえない情報については、支配の移転がありえず、財物性はもとより、財産上の利益であることも否定的に解すべきことを意味します。

 管理可能性説のなかでも、物理的管理可能性によって財物概念を規定しようとする見解(小野)は、このことを示すものといえます。しかしながら、刑法245条をその文言に反して注意規定と解釈してまで、物理的な管理可能性の有無により財物か財産上の利益かを区別する合理的な根拠、理論的な基礎づけは、なされていないのではないでしょうか。

#付言すると、245条は文理解釈しながら、242条は注意規定とする(あるいはその反対)のは、どうもバランスが悪いというか、据わりが悪い気がするのですが、学生の答案等から察するに、結構主張されているようです。
04:18:20 | dolus | | TrackBacks
Comments

K@H大 wrote:

わいせつ「物」について最高裁判例(最決平13・7・16)は有体物説を採っていて、財産犯の判例との間に齟齬があるように思えます。さらに刑法175条の改正案において電磁的記録の頒布等が処罰されることになれば、記録の複写を処罰することになりますね。この情報は移転しないという解釈は、ルーマンの情報理論においても強調されてるところです。
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