Complete text -- "解剖"

21 January

解剖

 最狭義のフォレンジックは法医学ということになるのでしょうか。その中心にあるともいえる解剖のわが国における現状は、惨憺たるものともいえます。
 解剖といっても、法医解剖と病理解剖とがあります。法医学と病理学と別の学問分野でもあります。病理解剖は、病死の原因、疾病の本態の解明、治療効果の判定などのためにされます。基本的に承諾解剖なので、遺族の承諾の範囲でしか解剖できません。
 きくところでは、病院側が病理解剖をしたいと申し出ても遺族が拒否をしてできなかったのに、後日遺族が医療過誤だと訴えることも多いそうです。ちなみに、法律上、病理解剖をしていて、異常死(過誤の疑いがあるなど)だとなれば、その段階で病理解剖は中止して、警察に届け出なければなりません(その後、検視、法医解剖へとすすみます)。なので、病理解剖をしてもらうということは、医療過誤の疑念を払拭したり、あるいは過誤の存在を明らかにし得るので、死に方がへんだというときにはやってもらえばよいのにと思うのですが、そう思わない日本人のほうが多いようです。こういうゆがんだ権利意識の解明は、法社会学の格好の対象だと思うのですが。。。
 
 医療過誤もそれにより人が死ねば過失致死罪となります。医療過誤による死亡の疑いがあるときは、司法解剖されることになります。
 わが国では、司法解剖はあまりなされないようです。千葉県だと、年間約7000体の異常死体のうち、司法解剖されるのは160体、行政解剖が20体ほどだそうです。欧米だと、7000体の異常死体だと、2000体くらいは法医解剖されるそうです。この原因は、リソースの不足だそうです。法医学者の絶対数が少ないことがまずあり、次に予算がないことです。解剖経費は、一体につき20万以上かかるのに、国からはその三分の一程度も補助されないそうです。
 法律上は、異常死については、綿密に死因を調査して特定しなければならず、捜査機関がその窓口となって解剖の実施をすべきなのでしょう。しかし、インフラ、リソースの不足がこれを妨げているようです。
 なお、厚労省は、司法承諾解剖(仮称)を制度化して、死因特定をはかるようなことを提案しているようです。ただ、この解剖では、専門医、病理医、法医学医が共働しておこなう必要がある仕組みが提案されており、大きな大学病院でもなかなか実施困難なもののようです。
 解剖しない死因の特定は、現状では、その正確性に問題があるとの報告もあるそうです。

しばらくは、医療過誤をめぐる死因特定は医師にとっても患者にとっても不幸なままなようです。
09:37:22 | dolus | | TrackBacks
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