11 December

機会はなかった

最高裁が事後強盗を否定したらしい。しかし、この報道文どおりなら、いつ判例変更があったのでしょうね。
　事案は、住宅に侵入し、財布などを盗んで逃げたが、３万円余しかなかったため、もう一度盗もうと約３０分後に現場に戻り、家人に発見されたためナイフを突きつけて逃げたというもの。
　で、問題の記事には、「事後強盗罪は、窃盗行為の後に暴行、脅迫した場合に適用され、窃盗罪より量刑が重い。ただし判例上、適用は窃盗が継続中の暴行、脅迫に限られており、窃盗行為が終了した後で暴行、脅迫しても成立しない。小法廷は「窃盗後ある程度の時間が過ぎ、被告はいったん容易に発見されたり逮捕される状況でなくなった」と、ナイフを突きつけた行為を窃盗終了後と判断した。
　１、２審は「終始、盗もうという意思が継続している」などと継続性を認め、事後強盗罪を適用した。」とある。
　そもそも、これを書いた人は矛盾していることに気づいていないのでしょう。だって、「窃盗行為の後に暴行、脅迫をした場合に適用され」としつつも「窃盗行為が終了した後で暴行、脅迫しても成立しない」と書いてます。窃盗行為の後で窃盗行為が終了する前とはいつなんでしょうね。
　ちなみに、窃盗行為ではなく、窃盗の終了時期は、財物の占有が移転したときでしょう。窃盗罪が状態犯であるなら、結果発生により犯罪が終了します。窃盗行為が終了していたとしても、財物の移転がなされていないなら、既遂ではないでしょう。
　問題は、事後強盗ですが、２年前の最高裁の判例（最決平成14年２月14日刑集56巻２号86頁）で「窃盗の機会の継続中」になされた暴行・脅迫について事後強盗を認めるとしたものがあります。一般的にも、暴行・脅迫が、窃盗の犯行現場でなされるか、窃盗の機会になされる必要があるとされています。よく判断基準として持ち出されるのが、窃盗行為と時間的・場所的な接着性です。暴行・脅迫をおこなう目的として、財物の取戻を防ぐ目的、逮捕を免れる目的、罪跡を隠滅する目的のいずれかが必要とされるので、窃盗行為と時間的、場所的に接着し、財物の取戻や逮捕の可能性が存在したり、証人などが傍にいる状況と考えてよいように思われます。
　すると、最高裁の判断のポイントは「窃盗後ある程度の時間が過ぎ、被告はいったん容易に発見されたり逮捕される状況でなくなった」という点にあり、それにより窃盗の機会の継続中とはいえないと判断したものとなるのでしょう。少なくとも窃盗行為の終了後に暴行・脅迫したならば、事後強盗にならないというものではないはずです。
　原文はまだないですし、１・２審の判決もみていないので、断定はできませんが、原審の判決では、窃盗意思の継続により、窃盗行為が継続していたというので、接続犯形態の包括一罪となりうる窃盗だとして、窃盗の機会の継続中を認めたものなのかもしれません。最近の裁判例では、意思の継続性などを理由に行為の一体性を認めるものがよく見受けられますが、その一つではないかという気がします。