Complete text -- "違法と責任"

03 December

違法と責任

 個々の人にとってみれば、犯罪が成立するのかしないのかということに関心があって、犯罪が成立しなかった場合に、それが違法阻却によるのか、責任阻却によるのかということは、問題にならないのかもしれません。でも、刑法では、違法と責任は区別して論じられることが多いのです。
 端的にいえば、もしある行為が違法と評価されるならば、その行為は誰もしてはいけないよ、と宣言して、知らしめる必要があります。他方で、違法でない、正当化されると評価される場合には、その行為はしてもよいのだと宣言して、知らしめることになります。
 違法性の実質を法益侵害という点から構成すると、行為を違法と評価することは、当該行為によって侵害された法益は保護されるべきであったと宣言することになります。逆に、行為を正当と評価することは、当該行為によって侵害された法益は侵害されてもやむを得ない、侵害は甘受しないといけないと宣言することになります。

 生命の侵害について緊急避難を認め、これを違法阻却として位置づけるならば、すくなくとも当該状況においては、侵害された生命は保護されない、生命侵害はしょうがないものと宣言することになります。他方、このような緊急避難を責任阻却とするならば、やはり当該生命は保護されるべきであったということを宣言することになります。ひとりの生命を救うために、他のひとりの生命を奪うことが許されるというのは、奪われた生命は法的に保護されなかったともいえるわけです。世の中に絶対的な利益とそうでない利益があるのか、おたがいさまと笑って許すことのできる利益侵害とそうでない利益侵害があるのか、どのような社会、法システムを構築するのがよいのか、こういった問題にも目を向けないといけないのです。

# 緊急避難あるいは正当防衛の法哲学的な基礎という問題は、かなり奥が深いものなのだ、ということがとりあえずわかってもらえればよいのです。
 法技術的な解釈論は訓練すれば、努力すれば、なんとかなります(法科大学院がこの部分を担うのでしょう)。でも、小手先の解釈論だけでは、研究者コースの修士課程や博士課程以上はつとまらないでしょう。きちんとした業績評価のできる人からは、否定的な評価を受けることになります。
15:49:14 | dolus | | TrackBacks
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