Complete text -- "ある先生の悩み"

13 September

ある先生の悩み

 選挙関係についても結構書きたいことはあったのですが、萎縮効果がはたらいて、やめました。

 法科大学院設置後の研究者養成のあり方は、各大学によっていろいろなようですが、大きく分けて、既存の修士課程を残しておくタイプと実定法関係は修士課程を廃止し、法科大学院修了者(あるいは新司法試験合格者)のみを博士後期課程に入学させるタイプとあります。例えば、前者が早稲田、慶應、後者が東大、京大などです。
 伝え聞くところでは、後者の制度の大学の某先生(専門は刑事法じゃありません)は、法科大学院卒業生からしか研究者を養成しないことで、早稲田・慶應に研究内容や研究力?といったものが追い抜かれるのではないか、憂慮されているということでした。一つは、大手事務所による青田買いが激しく、しかも研究者となるよりもはるかに高額(倍以上)の給与を提示して、優秀な学生を集めている現状で、あえて研究者になろうというモチベーションをもちうるのかということです。もう一つは、法科大学院入学時あるい在学時に英語の力をチェックでき、あるいは鍛えることはできても、それ以外の言語を習得させることは困難であることです。
 特に後者のほうは深刻らしく、法学の研究をやっていく以上、複数の言語を習得して、原典をあたることが必要なのに、法科大学院卒業すると、最低でも24〜5歳で、その段階で、ドイツ語やフランス語などを基礎から習得することなど難しいのではないかということのようです。そうすると、修士課程で、第二ないし第三言語の習得・鍛錬が可能となる早稲田などの研究者養成に負けてしまうというのです。

 その先生は、実際、修士課程の学生を受け入れたなら、研究を行うだけに足りる語学力をつけさせるのは、指導教員の義務だとおっしゃられるくらいの方で、それゆえにこのような憂いが出てくるのでしょう。ただ、このあたりは研究に対するモチベーションの問題で、多少年齢が進んでいても、モチベーションがあればちゃんと修得することは可能なように思います。早稲田の大学院生をみていても、修士課程できちんと外国の原典をきちんと読むだけの力をつけているのかあやしい状況です。これは、例えば、四半世紀前にくらべて、はるかにやさしくなった後期課程入試にぼろぼろ落ちていることや比較法研究のない修士論文が跋扈していることからもうかがい知れます。

 原典に当たることは大事なのですが、結構、忘れられがちなことです。誰かの訳したものでもよいではないかという意見もあるのですが、これは大きな間違いです。その訳が正しいという保証がないからです。翻訳自体テキスト解釈を前提にするので、翻訳した人間の解釈がどうしても入ってしまいます。法的素養のない人間が法学の文章を訳したら、とんでもないものになったりするのです。
#このことは、某役所が、不正アクセス禁止法の制定に向けて諸外国法制の調査を某会社に依頼したときに、実際起きたようです。世の中には、超訳とか称して、原文の味わいやニュアンスをまったく無視した翻訳もあったりして、それがよしとされたりしますが、そういう人たちにはわからないことなのかもしれません。
だから、自分の目で確認して、自分のもてる知識によって理解することが必要となります。このことは、英語についても、実はいえることです。英米法の基礎知識がないせいか、コモン・ローを誤用したり、エクイティを知らなかったりするような記述は、ちょっとインターネットの検索をすれば、多々みつけることができます。

# 法科大学院の授業に関してよく言及される判例中心とか判例研究とかですが、この意味も、アメリカとは違った意味で使われている気がします。判例という具体的ケース(あるいは具体的法)から、そこに潜む理論的問題を指摘し、法理論的な基礎づけ、理論構成(あるいは抽象的法)を展開し、さらに再度ケースへと戻っていくといったことがよくなされるのです。でも、日本で、判例とかいうと、なんらの理論構成も示していない結論だけをみて、その背後を考えることなく、テキストをこねくり回すというようなものを考えている人たちが多いようです。

## σ(^_^)自身そんなに語学力があるとは思っていないのですが、それに比してもひどすぎる実態があるように思っています。ちなみにま@わ大、お@つ大、う@ど大の三人は、マスター1年あるいは学部4年の夏休み一月で、ドイツ語を白紙から辞書を使ってドイツ刑法の教科書を読めるまでになりました。はやりモチベーションが大切ということでしょう。
12:47:22 | dolus | | TrackBacks
Comments

よしなが wrote:

トラックバックありがとうございました。
モチベーションがあれば、というのは(やや楽観的かなと思いつつも)その通りだと思います。やる気のある学生・院生が来てくれることを期待したいですし、積極的に育てないといけないかなと思います。
ただ心配なのは、「日本の実定法に通じていれば、外国法を知らないでもいいじゃないか」という、比較法を軽視する方向に今後進んでいってしまわないか。外国法を輸入する、あるいは外国法を知るというレベルの比較法は飽和状態にあるのかもしれませんが、やはり日本の法制度を相対化してとらえ、問題点を発見していく際の手法の一つとして、今後とも比較法的検討というのは必要だと思いますので。
09/13/05 14:00:07

ね wrote:

大手の弁護士事務所さんたちは、初任給=1000万円超〜、という札束を散らつかせて青田刈りします。
その誘惑に勝てるようなモチベーションを与えることができるのか
という空しい(?)戦いをしておられます>ある先生。
そのロー・ファームに入ったところで、必ずしもパートナーになれる訳ではないよ
、、、という事実を伝えるだけでは、司法試験に合格したばかりで、
天下国家をとった、と勘違いしている状態の「センセイの卵」さんたちは振り向いてくれません。

>金ではない研究の魅力をうまく表現できないのです。
>そういう表現力しかないので、語学力もないわけです。

もちろん、↑自分のこと、だよね(爆)?
09/14/05 04:03:51
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