Archive for October 2004

20 October

判例変更と遡及処罰の禁止

リンク先は民事中心ですが、先週総論の講義であつかったばかりのところに関係するので、ちょっとだけ、考えてみましょう。

Matimulog:水俣関連answer

もっとも社会通念が変わり、解釈が変わるという場合は、行為のときに一般的だった解釈・通念ではなく裁判のときの通念で判断されます。そして被告人に利益に変わるのであれば問題はありませんが、被告人に不利に、つまり行為のときの解釈では許される行為が、裁判のときには許されないと判断されることもあります。特に判例変更という場合には、遡及処罰禁止の憲法原理に違反するという疑いも生じます。



「疑いも生じます。」という微妙な表現です。おそらく争いがあるからでしょうか。
 判例の不利益変更による遡及処罰は憲法39条に反しないというのが判例です(最判平成8年11月18日刑集50巻10号745頁)。刑法では、判例は形式的には法源ではありえないし、判例の新解釈が本来的姿だということで、判例に賛成するのが多数説でしょう。判例変更の問題は、違法性の意識の可能性で処理するというのが今や多数説です。
 法律主義の説明にあるように、(類推解釈などの手法による)裁判所による新たな犯罪化が法律によらない処罰として罪刑法定主義に反します。この意味で、判例は法源ではありません。すると、その派生原理である遡及処罰の禁止も刑法の法源として認められている法律についてのみ妥当するということです。
[Read more of this post]
00:35:00 | dolus | 107 comments | TrackBacks